ハードウェアウォレットの安全性は、秘密鍵をオフラインに置くだけでは決まりません。SecuXが公開したセキュリティ情報を基に、シード生成時のハードウェア乱数、Secure Elementへの保存、復元情報の管理まで確認します。
背景と今回の論点
ハードウェアウォレットを評価するとき、「秘密鍵をオフラインで保管する」という説明だけでは十分ではありません。重要なのは、その秘密鍵の元になるシードがどのように生成され、生成後にどこへ保存され、外部へ取り出される可能性があるのかという一連の設計です。
SecuXは2026年8月7日、他社ハードウェアウォレットで報告された脆弱性を受け、自社製品の乱数生成と鍵保護の仕組みに関するセキュリティ声明を公開しました。直近7日間には公式ブログで新たなウォレット製品更新を確認できなかったため、今回は同社が公開している最新のセキュリティ説明を基に、セルフカストディで確認すべきポイントを整理します。
シード生成では「乱数の質」が重要
ウォレット作成時に表示されるリカバリーフレーズは、単なる単語の並びではありません。ウォレットの鍵を復元するための極めて重要な情報であり、その生成元となるエントロピー、つまり予測困難な乱数の品質が安全性に直結します。
SecuXによると、新規ウォレット作成時にはハードウェアTrue Random Number Generator、いわゆるTRNGを利用し、BIP-39で必要となるエントロピーを生成します。同社は、ソフトウェア生成の乱数やデバイスのシリアル番号、時刻のような予測可能な値には依存しないと説明しています。
さらに、ハードウェア乱数生成器を利用できない状態ではウォレット作成を進めない設計としています。これは「乱数生成に失敗しても別の弱い方法でシードを作る」というフォールバックを避ける考え方です。
生成後の鍵をどこに置くか
安全な乱数からシードを生成しても、その後に秘密鍵が一般メモリーや接続先のPCへ露出すれば、ハードウェアウォレットとしての防御効果は低下します。
SecuXは、生成したシードと秘密鍵をSecure Element内に保存し、外部へエクスポートしない構造だと説明しています。公式サイトではSecuXハードウェアウォレットにCC EAL5+ Secure Elementを採用していることも案内されています。
Secure Elementは暗号鍵などの機密情報を保護するために設計された専用領域です。ただし、Secure Elementを搭載しているという事実だけでウォレット全体の安全性が保証されるわけではありません。乱数生成、ファームウェア、署名処理、画面確認、バックアップ管理まで含めたシステム全体を見る必要があります。
秘密鍵とリカバリーフレーズは役割が違う
秘密鍵はブロックチェーン上の資産移動を承認する署名に使用されます。一方、リカバリーフレーズはウォレットを復元するための情報であり、対応する秘密鍵群を再生成できるため、実務上は秘密鍵と同等以上に慎重な管理が必要です。
ハードウェアウォレット内部の秘密鍵が外部へ出なくても、利用者自身がリカバリーフレーズをフィッシングサイトへ入力すれば資産を失う可能性があります。SecuX公式サイトでも、同社が24語のリカバリーフレーズを尋ねることはないと注意喚起しています。
したがって、メールやSNS、検索広告などから誘導されたページで復元情報の入力を要求された場合は、正規サイトかどうかを確認する以前に、その要求自体を警戒する必要があります。
端末外のリスクも管理する
セルフカストディでは、デバイスだけを守ればよいわけではありません。紙や金属プレートに保存したバックアップの盗難、偽サイト、悪意ある署名要求、PCやスマートフォンのマルウェア、サプライチェーンなど複数のリスクが残ります。
送金時には接続先アプリに表示された情報だけで判断せず、可能な範囲でハードウェアデバイス側の画面でも送金先アドレスや内容を確認します。不明なトランザクションやスマートコントラクトへの署名は避け、ファームウェアやアプリの更新についても公式情報から提供状況を確認することが基本です。
また、リカバリーフレーズの写真撮影、クラウド保存、メール送信など、オンライン環境へバックアップを移す運用はハードウェアウォレットを使う目的と矛盾します。端末とバックアップを別々のリスクとして管理することが重要です。
まとめ
ハードウェアウォレットの評価では、Secure Elementの有無だけでなく、「シードを何から生成するか」「秘密鍵をどこへ保存するか」「署名時に何を確認できるか」という流れを見る必要があります。
SecuXが公開している説明では、ハードウェアTRNGによるエントロピー生成とSecure Element内でのシード・秘密鍵保護が中核になっています。一方、利用者側にはリカバリーフレーズ、署名内容、正規アプリ、バックアップを適切に管理する責任が残ります。セルフカストディでは、端末のセキュリティと運用手順を一体として設計することが重要です。

