法人が暗号資産をセルフカストディで管理する際は、ハードウェアウォレットの台数よりも、起案者・承認者・署名者の分離が重要である。2-of-3マルチシグを例に、長期保管と日常支払の分離、復旧手順、担当者交代時の確認事項まで具体的に整理する。
法人の暗号資産管理では、秘密鍵をオフラインに保管するだけでは内部統制が成立しない。送金を誰が起案し、誰が検証し、誰が実行できるかを分けなければ、誤送金や内部不正を防ぎにくい。
2026年10月6日にはSafe Proが提供開始され、複数ウォレットの管理や監査記録を組織単位で扱う仕組みが整備された。重要なのは製品の高度化だけでなく、実際の承認業務にどう組み込むかである。
起案者と署名者を分ける
例えば3名の独立した署名者から2名の承認を必要とする「2-of-3」を採用する。経理担当者は送金先・金額・根拠資料を起案し、署名権限を持つ別の2名が内容を照合する。Safeでは提案のみ可能な権限と署名者を分けられる。
ただし、2台の端末を同じ担当者が保有すれば、形式上の複数署名でも実質的な権限分散にならない。
長期保管と日常支払を分離する
長期保管用は署名頻度を抑え、日常支払用には必要最小限の残高を置く。DeFi接続用も別アドレスとし、スマートコントラクトの誤承認が主要資産へ波及しないようにする。
署名前には、端末画面で確認可能な送金先・金額・ネットワークを照合する。内容を判読できない署名は中断し、公式アプリや取引内容を再確認する。
担当者交代と障害時の手順を先に決める
署名者の退職・紛失時に備え、権限変更に必要な署名数、代替署名者、復旧手順を文書化する。シードフレーズはWebサイトや通常のオンラインアプリに入力せず、担当者から独立した安全な場所に保管する。
導入前に少額送金、署名者不在、端末故障を想定した演習を行うべきである。マルチシグでも共謀、フィッシング、誤署名は残るため、端末選定より先に承認責任と例外処理を決めたい。

