法人が暗号資産をセルフカストディする際、2-of-3マルチシグは単独担当者による送金を防ぐ一方、鍵の保管場所や実質的な管理者が重なると統制が形骸化します。長期保管・日常送金の分離、承認記録、鍵紛失時の復旧まで、導入前に決めるべき運用を整理します。
法人の暗号資産管理では、端末を複数台購入するだけでは内部統制にならない。重要なのは「誰が送金を起案し、誰が確認し、何人の署名で実行できるか」を技術と社内手続きの両方で定義することだ。
2-of-3でも一人が二つの鍵を持てば意味が薄い
EVM系資産では、Safeのようなスマートコントラクト型マルチシグで3つの署名者アドレスから2つの承認を求める構成が考えられる。ただし2本の鍵を同一担当者が管理すれば、実質的な単独送金を許す。各鍵は独立した秘密情報から生成し、端末とバックアップを別担当者・別保管場所に分ける。単なる社内稟議とオンチェーンの署名閾値は別物だ。
長期保管と日常送金はウォレット自体を分ける
トレジャリー用は複数署名を必須とし、DeFi接続や少額決済には残高上限を定めた別アドレスを使う。承認時は送金先、チェーン、金額、コントラクト操作を端末画面などで照合する。少額テスト送金をしても、悪意ある署名や誤った承認は防げない。
鍵の紛失と退職を想定して定期点検する
2-of-3は1鍵の喪失に耐えられるが、残る2鍵が使えなければ資産を動かせない。退職時は署名者の入替を正規の承認フローで実施し、復旧訓練は少額の検証環境で行う。承認ログ、端末台帳、バックアップ保管者、緊急時の連絡経路を記録する。
MPCは権限管理に有効な場合もあるが、導入費用、継続費用、ベンダー依存も評価したい。小規模法人では、独立したハードウェアウォレットを組み合わせる構成が合理的な場合もある。ただしマルチシグにもスマートコントラクトの脆弱性や誤署名のリスクは残る。まずは署名者の独立性、承認内容の検証、復旧可能性を監査できる運用から設計することが重要だ。

